かぜ薬やせき止めなどの身近な薬を、本来の用法・用量を超えて大量に服用する「オーバードーズ」が、近年若い世代を中心に増えています。
これらの市販薬は薬局やドラッグストアで手軽に買える反面、一部の成分には強い依存性があります。そのため、過剰摂取を繰り返すと「やめたくてもやめられない」状態に陥るだけでなく、最悪の場合、命に関わることも。
今回は、オーバードーズの背景や心身への影響、依存の仕組み、そして大切な人や自分を守るための知識について解説します。
目次
オーバードーズの背景にあるもの
まずはオーバードーズとはどのような行為なのか、なぜ若者を中心に広がっているのか、その背景を見ていきましょう。
オーバードーズとは?
オーバードーズ(Overdose:OD)とは、本来の用法・用量を超えて薬を過剰に服用する行為です。近年、多幸感を得たり不安やストレスを紛らわせたりするために、かぜ薬やせき止めなどの市販薬を大量に服用する行為が問題となっています。
市販薬の過剰な服用は、臓器にダメージを与えたり、命にかかわる急性中毒を引き起こしたりする恐れのある大変危険な行為です。

なぜ市販薬に頼ってしまうのか
オーバードーズの背景には、単なる快楽目的だけではなく、日常生活での強いストレスや孤独、言葉にできない「生きづらさ」が深く関係しています。
イギリスで青少年を対象に行われた調査では、オーバードーズを行う理由に「ひどい精神状態から解放されたかったから」というケースが多く挙げられています。

同調査では、オーバードーズ経験者は非経験者と比較して、以下のような特徴がみられたと報告されています。
- 親しく遊んだり相談できたりする友人が少ない
- 親に相談できない、家族との時間が少ない
- 睡眠が短い、朝食を食べない日がある
- インターネットの使用時間が長い
また、過去1年以内に乱用目的で市販薬を服用した経験がある高校生は、約60人に1人いることもわかりました。
日本においても、オーバードーズ経験者は強い孤独感を抱えているケースが多いとされています。
オーバードーズによって、孤独や不安から逃れられた経験を繰り返すと、脳がその感覚を記憶し、本人も気付かないうちに依存(薬物依存)から抜け出せなくなってしまいます。
さらに、市販薬は手軽に購入できることから使用するハードルが低いことも拍車をかけています。
近年は、SNSなどでの違法な個人間売買の広がりによって、より危険な薬物が混入しているケースもあり、健康被害のリスクがさらに高まっています。
市販薬の飲みすぎによる影響は?乱用されやすい薬の種類や症状
市販薬には、過剰に服用すると身体に重大な影響を与える成分が含まれているものがあります。乱用されやすい薬や、その成分による身体への影響は多岐にわたります。
- かぜ薬(総合感冒薬)
・注意すべき成分:メチルエフェドリン、エフェドリンなど
・過剰服用のリスク:交感神経を刺激し、幻覚、呼吸困難などの症状を引き起こす。 - せき止め(鎮咳薬)
・注意すべき成分:コデイン、ジヒドロコデイン、デキストロメトルファンなど
・過剰服用のリスク:幻覚・解離状態などを引き起こし、最悪の場合は命に関わることもある。 - 解熱鎮痛薬
・注意すべき成分:ブロモバレリル尿素など
・過剰服用のリスク:意識の低下や呼吸抑制(十分な呼吸ができなくなる状態)の恐れがある。 - アレルギー薬・睡眠改善薬
・注意すべき成分:ジフェンヒドラミンなど
・過剰服用のリスク:幻覚、意識障害などのリスクがある。
これらの成分は、1度の過剰な服用でも、意識喪失や呼吸停止などの急性中毒が起こる場合があります。また、何度も繰り返すと肝臓や腎臓をはじめとした臓器への負担の蓄積や、依存症へつながる可能性があります。
抜け出せなくなる「依存」の悪循環
オーバードーズを繰り返すと、やめたくてもやめられない「依存」状態に陥ることがあります。
例えば、かぜ薬やせき止めに含まれるコデインなどの依存性がある成分は、脳に作用して、一時的に「つらさが消えた感覚」をもたらします。
しかし、過剰な服用を繰り返すと脳の神経が乱れ、徐々に同じ量では効果を感じられなくなります。
薬の効果が切れると、強い不快感や焦燥感、空虚感に襲われ、「また楽になりたい」という気持ちから摂取量が増えていきます。
「1度だけ」「今日だけ」と思って手を伸ばすうちに、いつの間にか「薬がないとつらくて仕方ない」状態になっていた、というのが依存症の実態です。
依存症の原因は、決して意志が弱いからではありません。薬の成分によって脳機能に起こる変化であり、本人の意志だけでは依存から抜け出すことが難しいため、治療には医療機関や専門家のサポートが必要となります。
薬の本来の役割と正しい使い方
薬は、熱や痛みといった症状をやわらげ、身体が自ら回復するのを助けるためのものです。心の痛みの原因となっている周囲の環境や人間関係、根本的な悩みを改善することはできません。
薬の用法・用量が厳密に決められているのは、身体に無理なく作用するためです。決められた量を超えて薬を服用することは、身体を危険にさらすことになります。また、複数の成分が配合されている市販薬のオーバードーズでは、1度に大量の複合成分が体内に吸収されます。
そのため、医療機関に搬送された際に、原因成分の特定などに時間を要し、命を救うための処置が遅れる場合もあるのです。
オーバードーズ対策と市販薬の購入ルール
オーバードーズによる健康被害から若者を守るため、国全体でも対策が進められています。その一環として薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)が改正され、2026年5月1日より「指定濫用防止医薬品」に関する販売ルールが大幅に強化されました。
新しいルールについて、詳しくみていきましょう。

18歳未満の購入制限などのルール
新しいルールでは、乱用のリスクが高い成分として、以下の8成分を含む医薬品が「指定濫用防止医薬品」に指定されています。これらは、私たちがふだんからよく使う身近な市販薬にも含まれている成分です。
| かぜ薬(総合感冒薬)・鼻炎薬 など |
|
|---|---|
| せき止め |
|
| 解熱鎮痛薬 |
|
| アレルギー薬・睡眠改善薬 など |
|
また、薬局やドラッグストアでの購入時には、以下の3つが厳格化されました。
- 購入できる数量
18歳未満の方は、小容量のもの(かぜ薬・解熱鎮痛薬・鼻炎用内服薬は7日分以下、そのほかは5日分以下)に限り購入できます。 - 購入時の確認
薬剤師や登録販売者から、対面またはビデオ通話などで購入者の氏名、年齢、ほかの薬の使用状況、さらに複数個購入したい場合は正当な理由の確認が必要となります。 - 陳列方法
対象の医薬品は、空箱での陳列や購入者が直接手に取れない場所で管理されます。
なお、ルールを守らない薬局や販売店は、薬機法に基づく行政処分の対象となります。
法改正は命を守るための取り組み
改正により「以前より薬が買いにくくなった」と感じることがあるかと思いますが、その背景には、市販薬の乱用による深刻な健康被害を防ぐという重要な目的があります。
また、SNSや知人、個人輸入サイトなどを介した薬の購入は危険なのでやめましょう。正規のルートで販売されていない薬には、以下のリスクがあります。
- 命にかかわる有害物質や偽造品が混ざっている
- お金を振り込んでも薬が届かない、詐欺に遭う
- 氏名や住所を悪用され、別の犯罪や恐喝に巻き込まれてしまう
- 万が一重い健康被害が起きても、国の救済・補償を受けられない場合がある
購入ルールが厳しくなったからこそ、自分自身や身近な人の状態を振り返るきっかけにしてみてください。
もし自身やまわりにオーバードーズで悩む人がいたら
オーバードーズや依存の問題は、個人の意志だけで解決することは極めて困難です。深刻な健康被害を防ぎ、回復へ向かうためには、ひとりで抱え込まずに専門の医療機関や相談窓口のサポートを受けることが不可欠です。
ご自身が悩んでいる・やめられない場合
「やめなければ」とわかっていてもやめられないのは、自分の意志が弱いからではありません。薬の成分によって脳や身体の状態が変化しているため、市販薬の依存から自分の力で抜け出すのは困難です。
そのため、やめられない自分を責める必要はありません。まずは少しでも誰かに気持ちを吐き出すことが、回復への第一歩となります。身近な家族や友人に話しにくい場合は、ひとりで抱え込まずに専門の相談窓口を活用してください。
周囲の人の異変に気付いたときの接し方
家族や友人の薬の服用量や頻度に異変を感じた場合、無理にやめさせようとするのは逆効果です。以下のような対応は、本人の孤立感を強め、依存からの回復を遅らせることがあります。
- 勝手に薬を処分する
- 頭ごなしに叱る
- 行動を監視する
大切なのは、本人が抱えている「つらさ」に目を向けることです。まずは話を聞くだけで、無理に解決しようとしなくても構いません。回復には話を聞いてくれる人がいるという安心感が必要です。
オーバードーズや依存の悩みはひとりで抱え込まず専門家・相談窓口へ
オーバードーズや依存から抜け出すためには、周囲や専門家の力を借りることが大切です。ひとりで抱え込まず、やめられない悩みを打ち明けたい、あるいは家族のことで相談したい場合は「精神保健福祉センター(各都道府県)」へ、自分を傷つけてしまいそうになる、消えてしまいたいと感じる場合は「まもろうよ こころ(厚生労働省)」へ相談してみましょう。
また、アイン薬局では、市販薬に関する相談はもちろん、必要な医療機関や支援機関への案内も行っています。気になることがあれば、お気軽に薬局スタッフへお声がけください。
参考文献・資料
- 厚生労働省「薬のオーバードーズって何だろう~あなたとあなたの大切な人の命を守るために~」
- 国立精神・神経医療研究センター「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査(2024年)」
- 国立精神・神経医療研究センター「薬物使用と生活に関する全国高校生調査2021」
- 厚生労働省「濫用のおそれのある医薬品について」
- 厚生労働省「依存症についてもっと知りたい方へ」
- 大阪府「市販薬の濫用を防止するため5月1日から販売ルールが変わります!」
- 奈良市「指定濫用防止医薬品に関する制度改正について(令和8年5月1日施行)」
- 東京都保健医療局「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律の改正について(令和8年5月1日施行・医薬品販売業関係)」
- PMDA「Q3 救済の対象となる健康被害とはどのようなものですか。」
- 厚生労働省「薬物乱用防止相談窓口一覧」
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」
- 厚生労働省「医薬品を安全に使うために~医薬品の販売制度に関する法改正をわかりやすく解説~」
記事監修
石黒 貴子
薬剤師/薬剤師歴27年







