トップメッセージ地域医療に貢献する
調剤薬局の持続可能性向上と、
企業としての成長を両立させていく
代表取締役社長
大谷 喜一
調剤薬局の持続可能性向上と
企業としての成長の両立を追求していく
アイングループは、「アイン薬局」を中心に全国に薬局を展開するファーマシー事業と、コスメティックストア「アインズ&トルペ」とインテリアショップ「Francfranc」を主要都市を中心に展開するリテール事業という、2つの事業を柱としています。現在のこの事業形態を確立するまでには、紆余曲折がありました。大きな転機は、1997年の金融危機をひとつの背景としてそれまでのすべての事業を見直し、調剤薬局を軸とした事業の再構築に取り組んだことでした。「同質化競争はしない」ことを基本戦略とし、収益性の高い事業に経営資源を集中させるとともに、新たな業態の開発に注力することで、持続的な発展を目指してきました。
この戦略が奏功しました。2002年のM&Aを機に調剤薬局市場のリーディングカンパニーとなるとともに、コスメティックストア業態1号店の出店を果たし、現在の当社グループの基盤が築かれました。
2000年以降は、調剤薬局市場全体が拡大していた時期でもありました。当社グループは、3度の中期計画において掲げた売上高目標「2005年4月期400億円」「2008年4月期1,000億円」「2014年4月期2,000億円」を通過点とし、業界内で独自かつ強固な事業基盤を確立しました。その後、コロナ禍で営業利益が減少した時期もありましたが、事業は順調に拡大を続けています。
特に、ファーマシー事業は業界トップを維持し、全国各地にフラッグシップとなる調剤薬局を出店することにより、調剤薬局としての“アイン薬局ブランド”を確立しています。薬剤師の採用が円滑に進むようになった他、好立地への出店のお声がけを多数いただくようになり、競争上有利な立場となりました。しかし、業界トップにあるということは、一方で、調剤薬局としての社会的使命を果たす責任もそれだけ大きいということに他なりません。政府の医療費削減の方向性が大きく転換することは考えにくく、薬価の引き下げや調剤報酬の下落による調剤薬局の利益の縮小傾向は続くだろうと予想されます。そのような状況の中で、調剤薬局の信頼性や持続可能性を高めつつ、企業としての成長をどのように両立させていくかが、今まさに問われていると感じています。
事業規模拡大とDXによる生産性向上が収益性を高め、次の成長につながる
調剤薬局の使命を果たしつつ企業としても成長していくために必要なことは、事業規模の拡大とDXによる生産性向上だと考えています。
高齢化・人口減少が続き、産業構造も大きく変わろうとしています。混沌とする時代状況の中、この先どのような外部環境の変化があっても事業を揺るぎなく継続していくためには、相応の事業規模の確立が不可欠です。また、AIがもたらす急速な社会経済の変化についていかなければ、企業は生き残ることが難しくなるでしょう。AIやDXへの投資は巨額であり、その原資を確保するためにも、事業や収益の拡大が必要となります。すなわち、「トップラインの拡大→DX投資の拡大→AIやDXによる生産性向上」という道筋を確立することが、現在の重要な経営課題なのです。
こうした認識の下、当社グループは、2024年8月にFrancfrancを、2025年8月にさくら薬局グループをグループ会社化し、リテール事業、ファーマシー事業両方の規模拡大を図っています。DX投資については、2025年4月期には約30億円を投じる等、継続して力を入れているところです。これらのM&AやDX投資が、当社グループの収益性を高め、次なる成長につながると確信しています。
さくら薬局グループのM&Aを含め、2026年4月期の計画を上方修正
次に、2025年4月期の業績についてご説明したいと思います。売上高は前期比14.3%増、計画比0.7%増の4,568億円となりました。一方、経常利益は前期比15.4%減、計画比9.6%減の180億円となり、増収減益で着地しています。リテール事業は、グループ会社となったFrancfrancの8か月分の業績が加わったことにより、売上高・経常利益ともに大きく伸びました。ファーマシー事業も売上高は伸ばしていますが、減益となってしまいました。
ファーマシー事業が減益となった要因として、まず挙げられるのが調剤報酬の改定です。調剤報酬の改定が行われた年は収益が落ち込む傾向がありますが、とくに2024年度の改定は大手企業にとって非常に厳しい内容であり、高額医薬品の粗利率低下が収益への大きなマイナスとなりました。もうひとつの要因は、ファーマシー事業の労務費及び管理コストの増加です。労務費の増加は、近年の物価上昇に対応した給与引き上げの結果で、人的資本への投資だと捉えています。管理コストの増加は、DX投資を前倒しで実行した結果であり、近い将来、生産性向上を通じて収益増につながるものと考えています。若干の減益は計画に織り込んでいたものの、実際の決算が計画を下回ったことは、厳粛に受け止めています。
2026年4月期の計画については、6月の前期決算発表時に一度公表しましたが、今期第1四半期の決算を踏まえ、さくら薬局グループのグループ会社化の効果も考慮し、9月に計画を上方修正のうえ、改めて公表しました。2026年4月期修正計画では、売上高が前期比41.4%増、経常利益が46.6%増を見込んでいます。
ファーマシー事業は、さくら薬局グループのグループ入りにより、調剤薬局が2,000店舗を超え、調剤売上高が5,000億円を超えます。特に関東・関西での店舗数が倍増し、さらなるトップラインの拡大、収益力強化につながると考えています。
リテール事業は、アインズ&トルペの売上が非常に堅調に推移していることに加え、Francfrancが初めて通期で寄与すること、アインズ&トルペとFrancfrancの協働が本格化すること等により、売上高、セグメント利益とも大きな伸びを見込んでいます。アインズ&トルペとの協働は、2025年4月期にインショップで5店舗、コーナー展開を3店舗で実施していますが、このうちインショップ形態でFrancfrancの商品を展開した郡山市の店舗では、全店平均より2ポイント以上高い粗利率を達成しています。今期は、「アインズ&トルペ+Francfranc」の形での出店の検証を進め、シナジーの創出を目指します。また、旗艦店舗の全面改装等、Francfrancに対しても適切な成長投資を実行していきます。Francfrancは洗練された商品を取り揃えており、その魅力を維持するためにも、ブランドの世界観を保つことが重要だと考えています。
生成AIを活用したシステムの導入が収益性を大きく向上させる
ここで、DX投資が各事業やコーポレート機能をどのように革新していくのかについて、お話ししたいと思います。
当社グループがDXの推進に特に力を入れ始めたのは、およそ7年前のことです。2018年に全国初となるオンライン服薬指導を開始し、2019年にはアインズ&トルペ公式アプリをスタートさせる等、デジタル化によって患者さまやお客さまの利便性を高めるとともに、業務の効率化にも取り組んできました。しかし、先ほど申し上げたとおり、AI活用の遅れは企業の存続に関わるという強い危機感を持ち、思い切った規模のDX投資を継続的に行い、人員も7年前の6名から約100名へと増やしています。
こうした先行投資によって開発・準備してきた新システムや生成AIが、効果検証を終え、2026年4月期から実際の業務に順次導入されていきます。例えば、ファーマシー事業における店舗の生産性向上のため、「AI診断書」を開発しました。これは、AIが膨大なデータから個店ごとの課題を分析し、効率化のための助言を毎月自動的に配信するというシステムです。さらに、服薬指導時の音声データを活用し、AIが薬剤服用歴の記載を補助する「生成AI搭載電子薬歴システム」を、2025年7月から導入しています。他にも、患者さまの待ち時間短縮に役立つ施策を含めた「業務改善のナレッジ集」を構築する等、効率化だけでなく、安全性や利便性の向上も追求し、店舗の改善をAIやDXによって推進していきます。
リテール事業では次世代POSの開発やEC・アプリのリニューアルによるサービス強化及びデジタルマーケティングの促進を図っており、全社的には生成AIを活用したバックオフィス業務の自動化や、会計・教育管理・購買・物流管理等、各種システムの刷新を、2027年4月期内の完了を目標に進めています。
一連のDX施策により、管理コストの削減はもちろん、単純業務からの解放と社員による高度な業務へのシフトが進み、労働生産性の向上や働きがいの向上が実現します。サービス内容も多様化・高度化し、お客さまの利便性や満足度もさらに向上するでしょう。まさに、当社グループ全体の事業が高度化していくとともに、今後その成果が収益にも大きく反映されていくものと考えています。
2034年4月期売上高1兆円を目指す「中長期ビジョン」を発表
2025年3月、当社グループは、中長期ビジョン「AmbitiousGoals2034 1兆円への果敢なる挑戦と革新の10年」を発表しました。大型M&Aの実施や事業規模の拡大に伴い、社員数も大幅に増加しています。今後の進むべき方向性を明確にし、グループ全体で目標を共有する必要があると考えました。
中長期ビジョンでは、売上高の目標として「2030年4月期7,000億円、2034年4月期1兆円」を掲げました。同時に、資本効率性の向上や収益力の強化・維持にも取り組み、「2030年4月期に純利益率4.0%、ROE13.0%、2034年4月期に純利益率4.0%、ROE15.0%」を目標としています。
この目標の達成に向けたドライバーとなるのは、ファーマシー事業及びリテール事業、それぞれの成長です。ファーマシー事業においては、専門性を備えた「かかりつけ薬局」としてアイン薬局の継続的成長、リテール事業においては、アインズ&トルペとFrancfranc、両ブランドの成長を基盤とし、M&Aも活用しながら、2034年4月期には売上高1兆円の達成を目指します。
定量目標の中でチャレンジングなのは「2030年4月期純利益率4.0%」の達成で、2024年4月期の純利益率2.8%から1.2ポイント上げていく必要があります。ここで重要となるのは、先に述べたAIやDXによる利益改善、特にファーマシー事業における店舗効率化と利益改善です。当社グループの調剤薬局は大型店が多いので効率化の効果も大きく、AIの活用が順調に進めば、大幅な利益改善が期待できると考えています。
また、出店やM&A等の成長投資に伴い、借入を増やす計画となっており、財務レバレッジは2024年4月期の1.8倍から2030年4月期には2.0倍、2034年4月期には2.3倍となる見込みです。その中で株主還元も強化し、今後5年間で自社株買いも含め、配当性向30%程度を目標としたいと考えています。
6つのマテリアリティに対応した30のプロジェクトが組織横断で活動
最後に、当社グループのサステナビリティ経営についてご説明します。
当社グループは、人々の健康や美に貢献する企業として「地域医療への貢献」「美しさとすこやかさの提供」をはじめとする6つのマテリアリティを特定し、サステナビリティ委員会のもと、その達成に向けて約30のプロジェクトチームが発足し、組織横断的な取り組みを進めています。
例えば、日本心臓財団等の4団体共催の、心臓病・脳卒中の予防を目指す「健康ハートの日」の啓発活動には、当社グループのすべての調剤薬局が参加しています。地域に根ざし、地域医療への貢献を志す企業として、たとえ小さな活動であっても、地域の調剤薬局を拠点に一つひとつ積み重ねていくことこそが、患者さま、地域の皆さま、そして多様なステークホルダーの皆さまとの信頼関係を築く道であると考えています。
環境課題への対応では、2024年12月より、関西及び北陸の調剤薬局において、太陽光発電を活用したオフサイト型コーポレートPPAの仕組みを用いた電力の導入を開始しました。冬季の省エネ・節電対応も継続し、積極的なCO₂排出削減に努めています。他に、医薬品廃棄の削減、一般消耗品の環境配慮品への切り替え等、着実に取り組みを進めております。
コーポレート・ガバナンスの面では、2024年に新たに加わった3名の社外取締役が2年目を迎え、5名の社外取締役がワンチームになったと感じています。取締役会では活発なご意見をいただき、明るい雰囲気の中、長時間にわたり建設的な議論が行われています。また、重要性が高まるM&Aやコンプライアンスに関して、それぞれの分野の専門家である社外取締役から有益な助言や提言もいただいており、執行の監視・監督機能は強化されていると考えています。
人的資本経営については、マテリアリティ「健全な経営基盤」における重要な取り組みとして位置付け、ダイバーシティ&インクルージョンや健康経営の推進に注力し、各種KPIを設定・開示しています。その中で、当社グループは女性社員の比率が高い(2025年4月末時点83.1%)ということもあり、女性社員のキャリア形成を支援する等、女性活躍推進に積極的に取り組んでいます。これらの取り組みは高く評価されており、女性活躍推進においては「プラチナえるぼし」や「プラチナくるみん」の認定を取得し、健康経営では5年連続で「健康経営優良法人」の認定と2年連続で「健康経営優良法人ホワイト500」の認定を取得しています。
また、ESGの観点からも、当社グループのさまざまなマテリアリティに対する継続した取り組みが高く評価されています。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が採用する国内株式を対象としたESG指数の構成銘柄のうち、5つに選定されている他、最近では、およそ300銘柄で構成される「SOMPOサステナビリティ・インデックス」にも選ばれています。
「お客さまの元気と笑顔のために」この考え方を忘れてはいけない
当社グループ自体のサステナビリティを考えたとき、最も重要なことは「社員の幸せ」だと私は考えています。「グループ・ステートメント」にあるように、第一に「社員が幸せを感じられる会社」にすること、そして「自ら挑戦でき、新しい形を創れる仕事場」にすることが、サステナビリティ経営の核心であり、経営者の最も大事な任務なのではないでしょうか。
先ほどDX関連の人材を約100名に増員したと述べましたが、その多くは中途採用で、多くの方が当社グループの成長性やカルチャーに魅力を感じて入社してくれたのだと思います。その他にも入社間もない社員たちが各事業で活躍し、会社全体の変革を牽引する重要な役割を担っています。
M&Aにしても、必ずしも資金があれば実現できるものではありません。さくら薬局グループのM&Aは、同業でカルチャーも近いという好条件があったものの、グループに入った後の経営を担う人材が揃っていたからこそ、実現できたのです。さくら薬局グループの新体制発足後、何をなすべきかをまとめた「100日プラン」というものがありますが、これは、私の指示に基づいた検討の結果ではなく、新体制発足後の経営を担う役員や管理職が中心となって主体的に策定したものです。そのプランのもと、新体制のさくら薬局グループは非常に順調なスタートを切っています。
社員の自由な挑戦と創造性こそが、会社の成長を支えているのだと改めて実感しています。
ただし、社員の自由な挑戦も、「何のために」が明確でなければ意味がありません。私たちは「お客さまの元気と笑顔のために」仕事をしているのです。この考え方を決して忘れてはいけません。
その意味では、ファーマシー事業においてもリテール事業においても、オーガニック(自力)出店が非常に大事です。収益に大きなインパクトがなくとも、やはり自社による新規出店や店舗開発を着実に重ねていかなければ、企業としての基盤を強化することはできないでしょう。いかにすれば「この街にアインがあって良かった」と感じていただけるのかを想像し、新たな価値を生み出し続けることで、社員も会社もともに成長していくと考えています。
株主の皆さまも、当社グループの成長をご期待いただき、株式を保有してくださっているのだと思います。私たちは、そのご期待にしっかりと応え、企業価値の向上に努めていかなければならないと考えています。